こんにちは、現役公認会計士の植村拓真(うえむら たくま)です。
本記事では、財務会計論(短答)の勉強法について解説します。あなたも、公認会計士試験の勉強をするに当たって、最初の科目が財務会計論だったのではないでしょうか。
それもそのはずで、財務会計論は他の科目と比べて、圧倒的にボリュームが多いです。ボリュームが多すぎて、試験勉強の初期段階から手をつけておかないと間に合いません。
また、財務会計論で勉強する内容は、公認会計士の独占業務である監査において必須となる企業会計の知識のベースです。
これらの知識は実務でも重要なので、将来の仕事にも直結する重要な科目だと認識して気合を入れて勉強しましょう。
さて、財務会計論は大きく分けて計算と理論に分かれます。
短答式試験では、出題量・配点がだいたい計算が6~7割、理論が3~4割です。計算の配点のほうがウエイトが大きいですが、理論もしっかり勉強・対策しましょう。
それでは、計算と理論に分けて、それぞれの勉強法について解説します。
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財務会計論の計算は仕訳・解法を体の髄まで刻み込め
まずは、計算の勉強法から解説します。財務会計論の計算は、ほぼ簿記と言いかえても良いです。
私はいつも個別指導している生徒さんに、試験勉強のメインに据えるべき教材は問題集だと伝えています。
そして、これは特に簿記について当てはまります。テキストを眺めている時間が1だとすると、問題集に取り組んでいる時間は5くらいかけて良いです。
それでは、具体的な勉強法について解説します。
簿記はとにかくアウトプットが大事
簿記は仕訳・解法など、問題を解きながら覚えていくのが一番効率的です。テキストを読んでいるだけでは絶対に覚えられません。
ましてや、講義を聞いただけで一日の勉強を終わらせるのは論外です。
簿記は、
- 何回も問題を解いて
- 何回も間違えて
- 何回も解き直す
上記を繰り返してやっと身に付けられます。仕訳・解法を体の髄にまで刻み込む勢いで取り組むべきです。とにかく、何度も繰り返し問題を解かないと身に付きません。
「簿記はスポーツだ!」とよく言われておりそのとおりで、理屈で覚えるのではなく体で覚えましょう。
特に、連結のタイムテーブルや退職給付会計のワークシートの書き方なんて、理屈ではありません。
問題のパターンごとに解法パターンも丸暗記して、同じような問題に遭遇したらパッと仕訳の形が思い浮かぶレベルにまで仕上げるのが理想です。
簿記は、本当にアウトプット中心の学習です。インプットはサラッと行いましょう。講義音声聞いたりテキストを眺めたりする時間は、最小限に留めるのがベストです。
テキストなんて、問題を間違えたときに参照するだけ構いません。とにかく覚えたことをアウトプットすることが重要です!
目安としては、問題集の全部の問題を3周以上できれば一安心です。もちろん、復習のタイミングには気をつけてください。
ちなみに、大半の受験生が財務会計論の段階で勉強から脱落します。
- 学校教育の呪縛や予備校の洗脳の影響を受けて、
- 講義中心・ノート取り中心のインプットベースな勉強を強要されて、
- 十分なアウトプットができずに、
- 簿記の成績が上がらず、
- モチベーションが下がって、
受験勉強から撤退するパターンがほとんどです。
簿記はそうではなく、アウトプットがすべてなのです。自分で仕訳書き、電卓叩き、解答欄埋めなければマスターできません。
財務会計論の計算を制するうえで、とにかく手を動かすことが一番の近道です。
また、最初は問題を解くスピードが遅くても、問題を繰り返し解けば必ず早くなります。繰り返し問題を解かなければ、スピードを早められません。
簿記の勉強は本当に泥臭いのです。泥臭い勉強ですが、半端なテクニックを使ったり変な暗記法に惑わされたりするよりも一番効率的なのです。
ただ、その分勉強に時間がかかってしまうので、長期的な計画を立てたうえで各受験生の最も適したペースで進めましょう。
簿記は一回体に染み込ませれば、あとは定期メンテナンスするだけで済むようになります。体が覚えてくれるため、一度マスターすれば問題を見ただけで自動的に手が反応してくれます。
特に、論文式試験の前は簿記にほとんど時間をかける必要はありません。問題集を一からやり直す必要もほぼありません。

マスターしたあとのメンテナンスも、論文式試験の勉強時に予備校から配布される答練等をこなしているだけで十分です。
その分空いた時間を、他の科目の勉強に時間を使えるようになります。
だから、早いうちに簿記をマスターしておくと後々楽です。マスターしづらい分、マスターできれば他の受験生にも大きな差を付けられますからね。
問題を解くスピードを早くするには?
ただ、問題を解くスピードをできるだけ早くする工夫は普段から行っていきましょう。簡単に言えば、書く量を減らすのが大事です。
書く勉強は無駄が多いですからね。書く勉強は大量の時間を必要とする割には、大してインプットに役立たないので割に合わない勉強だとこちらの記事で詳しくお話しています。
一方、アウトプットの方法としては書くしかないので、問題を解くときも解答を書かざるを得ません。
ただ、その際もなるべく書くのに掛ける時間を減らしましょう、ということも以前お話しした内容ですよね。ここで、簿記の勉強で取るべきテクニックが、勘定科目の略称を使うことです。
「売掛金」→「売×」
「買掛金」→「買×」
などの略称は有名だと思います。
また、それ以外も自分が分からなくなってしまわない範囲で、勘定科目の略称は積極的に使っていきましょう。あらゆる手段を尽くして、書く時間をなるべく減らしてください。
間違っても、法人税等調整額とかその他有価証券評価差額金とか、馬鹿正直に勘定科目名をすべて書いてはいけません。時間がかかりすぎるからです。
ちなみに、私が受験時代に使用していた勘定科目の略称例も晒しておきます。
資産項目
売掛金 → う×
貸倒引当金 → かし引
受取手形 → うけ手
商品 → しな
貯蔵品 → ちょ
前払費用 → 前ヒ
未収利息 → 未・利
土地 → とち
建物 → 建
建設仮勘定 → 建かり
減価償却累計額 → AD
機械装置 → きかい
投資有価証券 → とうし
関係会社株式 → 関かぶ
長期前払費用 → 長前ヒ
繰延税金資産 → DTA
負債項目
支払手形 → し手
短期借入金 → 短かり
未払費用 → 未ヒ
未払法人税等 → 未・法
仮受金 → 仮うけ
長期借入金 → 長かり
退職給付引当金 → 退引
資産除去債務 → じょさい
社債 → しゃさい
繰延税金負債 → DTL
純資産項目
繰越利益剰余金 → くりこし
自己株式 → じかぶ
新株予約権 → しんかぶ
その他有価証券評価差額金 → その他
PL項目
売上原価 → うげ
減価償却費 → Dep
貸倒引当金繰入額 → かし引くり入れ
受取配当金 → うけはい
受取利息 → うけり
社債利息 → しゃり
投資有価証券評価損 → 投ひょう損
投資有価証券売却損 → 投ばい損
固定資産売却損 → 固ばい損
減損損失 → げんそん
法人税等調整額 → H
上記のように、見た目はかなり悪いですが、単に略すだけでなく漢字の代わりに
- ひらがな
- カタカナ
- アルファベット
も使ってできる限り書く時間を減らすよう工夫を凝らしています。全部真似すべきとはいいませんが、ぜひ参考にしてみてください。
また、勘定科目の略称以外にも、ご自分で「もっと書く量を減らせないかな?」と普段から考えながら学習を進めてくださいね。
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電卓のブラインドタッチの習得は必須
計算問題を解くとき、電卓は左手(利き手が左手なら右手)で使うようにしていますか?当然、ブラインドタッチもできるようになっていますよね?
すべての計算科目に言えるのですが、電卓を利き手とは反対側の手でブラインドタッチできことは、短期合格を目指すうえで必須のスキルです。
問題を解くスピードが5~10分以上は変わります。短答の問題1問解けるほどの時間ですね。
特に、時間が足りなくなりがちな財務会計論で、5~10分ロスするのは致命傷です。
上記の感覚を今すぐ持ってください。
ちなみに、私の受験生時代も、直前期にもかかわらず右手でチマチマ電卓を叩いている人がいました…。
「だからあなたは何回も落ちるんですよ!」
とどれほど言いたかったことか…。まあ、受験生時代は、そんなライバルに塩を送るような真似はしなかったですが。
でも、今は違いますよね。今なら私は、全力であなたの勉強を応援できるので、私はあなたに心からのアドバイスをします。
電卓のブラインドタッチは、絶対にマスターしておくこと!
もしまだあなたがマスターしていないのであれば、早急にマスターしてください。
電卓は合格後も仕事で頻繁に使うので、ブラインドタッチは早めに身に付けておいて損はありません。
逆に、ブラインドタッチすらできない公認会計士なんて、仕事できなさそうな感じがしませんか?電卓のブラインドタッチはマスターするのにそんなに時間はかかりません。
頑張れば1~2週間くらいで身に付けられるでしょう。パソコンのブラインドタッチをマスターするよりよっぽど楽です。
電卓のブラインドタッチをマスターするのにかかった時間は、問題を解くスピードの速さでカバーしましょう。ぜひ今のうちに、電卓のブラインドタッチをマスターしておいてください。
※電卓のブラインドタッチのやり方は下記をご参考にどうぞ
- 参考記事:計算機(電卓)のブラインドタッチ:左手編
- 参考記事:計算機(電卓)のブラインドタッチ:右手編
財務会計論の理論はテキストの読み込みと問題集の解答を繰り返す
財務会計論の理論は、財務諸表論といわれていますね。
公認会計士試験では、企業等の財務諸表の作成及び理解に必要な会計理論、会計諸規則及び諸基準並びに会計処理手続について出題されます。
簿記で勉強した仕訳・会計処理が、どういう理由でどういう目的でそういった仕訳・会計処理をしなければならないのかとかいった風に、企業会計基準の制度趣旨・背景を理論的に学ぶ科目です。
財務諸表論は、以下の2つの前提知識があればとっつきやすいです。
- 現金主義会計と発生主義会計
- コンバージェンス
順番にお話していきます。
現金主義会計と発生主義会計
昔は現金の動きがあった際に、収益計上などの会計処理を行う現金主義会計を行っていました。
しかし、経済活動が発展していくにつれて掛取引などが広がり、企業の信用がものをいう時代になってきたため、現金主義会計が時代にそぐわない処理になっているのではないかと指摘が起こってきました。
そこで現行の会計基準では、現金の動きがなくても役務提供の完了といった事実が発生した時点で収益計上などの会計処理を行うことを求める発生主義会計が原則とされています。
ストックオプションや退職給付会計、資産除去債務などのややこしい会計処理も、すべてこの発生主義会計を満たすことを目的として制定されているものです。
発生主義会計のせいで、話がややこしくなっているとも言えますが…。
ちなみに、実務では交際費とかの請求書の日付は3月なのに、請求書が4月に入ってからやっと届いたために、決算締の作業に間に合わず費用計上が漏れていた問題が頻繁に発生しています。
発生主義の観点から行くと、当然その事実が発生した月に費用を計上すべきなのです。実務上、なかなか対応が難しいケースもありますね。
コンバージェンス
コンバージェンスとは、会計基準の世界的な収斂(しゅうれん)のことですね。
企業のグローバル化が進んでいる一方、各国で会計基準が異なっていると各企業間での経営成績の把握が困難になるのでは?といった問題が生じています。
問題を解決するため、企業のグローバル化に対応して会計基準もグローバル化を進めていくべきだというのがコンバージェンスの考え方です。
そして、グローバル化の基準となるのがIFRS(国際財務報告基準、イファースと発音)です。
つまり、各国でそれぞれ異なる会計基準についても、いずれはすべてIFRSに収斂していくように、世界的な圧力がかけられているということですね。
日本もその圧力に屈しつつあり、従来の日本の会計基準を捻じ曲げてIFRSに合わせにいった会計処理(包括利益など)があります。
日本のガラケーがiPhoneなどのスマホにことごとく駆逐されていった様を思い浮かべれば、理解しやすいでしょう。
日本でもパナソニックやKDDIなどの大企業もすでにIFRSを適用しており、令和4年5月時点でIFRS適用済みの会社が241社あります。(JPX 日本取引所グループHP参照)
今後もIFRS適用の波は続くでしょうから、公認会計士はIFRSについて深く理解しておく必要があるでしょう。IFRSを知っている公認会計士は重宝されるとも言われています。
こういった背景を踏まえ、少し大人の事情も含めながら現行の会計処理が定められています。この辺りの知識を土台として覚えておくと、今後の勉強も捗るというか内容の理解がスムーズです。
財務諸表論の勉強の進め方
理論は計算とは異なり、問題集と同じくらいテキストも使います。テキストを読み込んで、記憶の定着を図ります。
テキストは本文だけでなく、注釈も含めたすべてがどこに書いてあるかパッと思い浮かべられるくらい読み込みましょう。
短答式試験の場合、定義や趣旨まで暗記する必要はありませんが、暗記まで行かずともその内容が腑に落ちて理解できているレベルには達する必要があります。
そして、試験範囲が膨大なので、それなりに時間をかける必要があります。テキストを3周以上できれば合格圏内に入れるでしょう。
もちろん、問題集もフル活用します。基本的な勉強の流れとしては、
倍速の講義音声を聞きながら、テキストをさらっと読み流す
テキストの全体像を大まかに把握する
↓
問題集を解く
間違えた論点については、その論点全体についてテキストを読み返す
↓
もう一度テキスト全体を読み返す
今度は注釈も含め全ての内容を理解する気で読み込む
↓
一回目に間違えた論点を中心に、もう一度問題集を解く
間違えた論点については再度テキストを読み返す
↓
もう一度テキスト全体を読み返す、終わったら問題集を解き直す
こういうプロセスですね。上記のプロセスを反復すればするほど、記憶が強く定着します。
初めてテキストを読むときは内容を理解するのに時間がかかりますが、あまり長く悩んでしまうようであれば、その論点は飛ばしてどんどん先に進むようにしてください。
一度問題集の問題を解けば、どういう形式で出題されるのか、その論点で特に理解しておかなければならないことは何か、分かるようになります。
そして、その理解によって勉強にも強弱をつけられるようになります。理解すべきところと覚えるべきところが分かり、一方で手を抜いて良いところが判別できるようになります。
すると、テキストを読んだだけではよく分からなかった部分についても、1回目よりもスムーズに理解できます。
また、繰り返しになりますが、書いて覚えようとするのは時間がもったいないので、絶対にやめましょう。
覚えにくい論点については、何度も繰り返し読む、何度も繰り返し声に出す勉強で対応してください。
追加で準備しておきたい問題集
財務会計論は、計算・理論共に問題集が重要です。計算に関しては、予備校で配布される問題集をマスターできれば、十分合格レベルに達します。
一方、理論に関しては予備校で配布される問題集では不足がある印象です。

そこで私は、以下の問題集も自分で追加で購入して解いていました。
- ベーシック問題集 財務会計論 理論問題編 (公認会計士 短答式試験対策シリーズ)
- アドバンスト問題集 財務会計論 理論問題編 (公認会計士 短答式試験対策シリーズ)
- 公認会計士試験 財務会計論 会計基準 早まくり条文別問題集
特に、一番下の早まくりはとても良い問題集でした。これだけで短答の試験範囲をすべてカバーできているんじゃないか、というくらいの網羅性の高さです(その分量も多い)。
ご自身の学習状況や予備校で配布されているテキストなどを勘案して、準備するようにしてください。
※必ず最新版かどうか確認して購入するようにしてください
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また、以下の記事で短答式試験に短期合格する勉強法を科目別にまとめていますので、こちらもご覧ください。